リサイクルショップ

井上さんは大学生の時、学校近くのリサイクルショップでアルバイトしていた。その店は大きな住宅街の横に位置しており、利用者もほとんどがその住宅街の住民だった。ある冬の夜、井上さんが一人で閉店作業をしていると、いつのまにか一人の中年男性が買い取り受付の前に立っていた。店には井上さん一人だったため、すぐに作業を中断し、今日はもう閉店だからまた来てください、とその男性に声をかけた。ところが男性は頑として帰ろうとしない。
「明日からしばらく忙しい。今すぐに引き取ってくれるなら、お金もいらない。」
 そう言って、何度も頭を下げる。閉店まであと10 分はある。年上の人にそこま
で頼まれると、なんだか断るのも忍びなく感じて井上さんは品物を引き受けた。店
にはたまに「タダでもいい」というお客さんが来る。以前そのようなお客さんとトラブルになってから、値段が付くもの・売れる状態でなければタダでも引き取らないように、と店長からきつく言われていた。だが男性が持ち込んだのは、新品同様に綺麗な釣り竿だった。井上さんでも知っている有名ブランドのもので、目立った傷もない。中古でも数万はするだろう。買い取り手続き中に、雑談がてらどうしてこんな高価なものを手放すのかを男性に聞いてみた。
「妻に処分するように言われたんだ。場所を取っちゃってね。」
 男性は笑いながらそう答えたが、どこか挙動不審だった。井上さんが査定金額を
渡そうとすると、男性はひどく遠慮して、本当に受け取らずに帰って行ってしまった。去り際に、何度も礼と謝罪を繰り返していたのが妙に印象に残ったという。
 さっそく翌日から店頭に釣り竿が並んだ。そして半月もしないうちに常連のお客さんが買い取って行った。常連さんは良い買い物をしたと喜んでいたし、店長もタダで仕入れたものが高く売れて嬉しそうだった。
 しかし翌月、バイトに出た井上さんに店長が神妙な顔つきで声をかけてきた。例の釣り竿がまた店に戻ってきていたのだ。売りに来た常連客が言うには、その釣竿を使って釣りをすると、毎回人毛が絡まっているのだそう。強く引く感触があり挙げてみると、糸の先には人毛が巻き付いているのだと言う。海藻と勘違いし取り除こうとして、腰を抜かしてしまったらしい。それが一度や二度ではなく、海に糸を垂らすと毎回人毛が絡みつく。また良く見てみると、釣り針の先にただ人毛が絡んでいるのではなく、毛束を堅結びされているのだそうだ。気味が悪くなり、再びこの店に売りに来たということだった。話を聞いた井上さんが釣り竿の買取記録を渡すと、店長が元の持ち主である男性にも話を聞こうと電話をかけた。しかし電話は全く別の人物に繋がり、虚偽の電話番号だったことが判明した。しかたがなく、身分証明書のコピーを確認したところ、何と男性はリサイクルショップのある場所から新幹線で五時間以上かかる県に在住していることが分かった。行方を追えないこともないが、現に釣り竿はあるし、店が大損したわけでもない。しかたがなく、その釣竿は綺麗に掃除して再び店頭に飾った。
 井上さんがいる間その釣竿は良く売れたのだが、しばらくすると必ず戻ってきた。いつまでたっても綺麗な上、毎回売りに来た人に常連客と同じような内容の文句を言われるため気味が悪かった。しかし店長は
「水に入れなきゃ平気だし、毎回高値で売れて、帰って来てくれるし、良い商品だよ。」
 そう嬉しそうに笑っていた。