冷蔵庫

 洋子さんは新社会人一年目の女性である。  彼女は一人暮らしを始める時、家電のほとんどを引っ越し先の近所にあるリサイク ルショップでそろえた。そのリサイクルショップは全国に展開しているチェーン店で、 品ぞろえも充実していた。店に並ぶ家電の中から、比較的綺麗で安価なものを選ん で購入した。さっそくその日から使い始めた。洋子さんは料理が趣味であったので節 約も兼ねて、一週間分の食事を作り置きしておこうと考えていたそう。荷解きが済む と近所のスーパーで食料を買い込んできた。調理は翌日することにして、その日は調 味料や食料の整理にとどめた。

 夜中、深夜一時を過ぎたころ、電気を消してベッドに横になっていると、冷蔵庫か らガタガタと物を動かすような音が聞こえた。一瞬泥棒が入ったのかと思い身構えた が、見る限り異常はない。念のために冷蔵庫を開けて見てみたが、特に変わった様子冷蔵庫はなかった物をたくさん入れたから動作音が大きくなっているのかな、そう考えて その夜は眠った。翌朝調理するために食材を取り出すと、買っておいた鶏肉の包装が破れている二パック買ったがどちらも同じようにラップ部分に穴が開いていたそのためか、鶏肉はひどく乾燥してしまっていた。スープと揚げ物にしたが、やはり味は 悪く洋子さんは落胆した。

 翌週、同じように具材を買い込んできた。その日の夜もやはり妙な音が冷蔵庫か ら聞こえた。翌朝確認すると、今度は鶏肉に加えて豚肉の包装も破れていた。豚肉 は茶色く変色し、臭いもきつかったため、泣く泣くゴミとして処分した。包装が破 けていたとはいえ、たった一晩で腐るなんてことがあるだろうか。肉以外の野菜や、調理済みの肉料理は普通に保存できるため、故障ではないだろう。理由が分からな いまま、洋子さんは週明けに初出社をしたという。

 その週の金曜日、洋子さんを含めた新入社員の歓迎会が行われた。自己紹介を終 え楽しく食事をしていたところ、洋子さんの料理へと話題は移った。そのついでに冷 蔵庫の不調について話をすると、家電に詳しい先輩社員があれこれと原因を考えてくれた。しかし他に不調は無く、肉だけが被害にあうことを伝えると、その先輩も首 をひねり考え込んでしまった。ふと、横で話を聞いていた他部署の社員が

「冷蔵庫の中をアルコール消毒して、塩を袋かパックに持って入れとくと良いよ。」

 と口をはさんだ。何故かは教えてくれなかったが強く勧められた。帰って冷蔵庫を アルコールティッシュで拭き、小さい真空パックに塩を詰めて冷蔵庫に入れ、帰りに買っ た食料を詰めた。その日は夜中の物音は聞こえなかったという。目が覚めすぐに冷蔵 庫を確認すると、肉は昨日のまま、包装も破けていなかった。  

 翌出勤日、時間を見つけアドバイスをしてくれた先輩にお礼を言うついでに話を聞 きに行った。先輩は初め渋っていたが、やがて観念したように話し始めた。先輩には 霊感があり、話からなんとなく洋子さんの冷蔵庫には良くないものが憑いていると感 じたそうだ。酒と塩で清めれば弱い霊なら離れていくと思ったらしい。成功して良かっ たと笑いながら言う先輩に、もし離れなかったらどうするのかと聞いてみると、

「やっぱり元の場所に戻すのが良いんじゃない?たぶん、前の持ち主も似たような経 緯で売ったと思うよ。新しかったでしょ。」

 リサイクルショップ そう言われた。洋子さんはこの経験以来、何かを買うとき、特に家電は必ず新品を購入するようにしている。