液晶画面

 福田さんは今年で大学四年生になる男性である。彼は入学時に貯金していたバイト代で二十万円弱するノートパソコンを購入したのだが、一年次以降はほとんど使っていない。その理由は

「電源が入っていないときの画面が怖いから」なのだそうだ。

 福田さんがパソコンの暗い液晶に恐怖するようになったのは、大学一年生の夏のことである。夏になり、最終課題やレポートのために徹夜する日が何度かあった。ある日の深夜、そろそろ寝ようかとパソコンの電源を落としたところ、画面に白い点が残っていた。汚れがついているのかと思って画面を拭いてみたものの、点は取れない。となると液晶の故障だろうか、勘弁してくれ。買ったばかりなのに。修理に出そうかとも考えたが、作業の邪魔になるほどでもない上に課題の締め切りも近かったため、そのまま放っておくことにした。

それから三日ほど、夜中まで作業が終わらない日が続いた。毎回パソコンの電源を落とすのは、深夜三時を回ってからだった。液晶の白い点は、そのたびに少しづつ広がっているように見えた。

 やがて全ての課題を終わらせるころには、白い点は二センチメートルほどまで大きくなってしまっていた。不思議なことに、電源をつけているときには点が見えず、点の存在を忘れてしまう。だが暗くなった液晶を見ると、どうにも気になる。やっぱり修理に出すか、と点を眺めていると、その点がもぞりと小さく動いた。驚いてよく目を凝らすと、再び点が上下に動いた。その時ようやく気が付いたが、それはただの点ではなく横たわった人の形をしていた。人と言っても、大人ではなく手足の短い赤ん坊のようだった。赤ん坊だと分かった途端、先ほどの動き方も理解することができた。こちらに向かってハイハイをしているのだ。呆気に取られて眺めていると、赤ん坊は画面の外、福田さんの方に向かい三度「ずりっ」と体を近づけてきた。その光景を見た福田さんは慌てて画面を閉じ、急いで布団にくるまると、震えて朝を待った。

 翌日福田さんは、もしかするとパソコンがウイルスにでも感染しているのでは、と考えてパソコンを専門店に持って行った。ところがパソコンは特に異常なしと診断された上に、シャットアウト後の暗い液晶には何も映っていなかった。釈然としないまま、福田さんはパソコンを使わなくなった。後期授業が始まってからも、ノートパソコンの画面を見るのが嫌で常に学校のパソコンを使用していた。
 後期も終わりかけ、レポート課題が山のように出された週に、友人の一人にパソコンを貸してくれないかと頼まれた。持っているパソコンが壊れてしまったらしい。一瞬、赤ん坊のことが福田さんの頭をよぎったが、まあ半年も経ってるし大丈夫だろうと、友人にパソコンを渡した。一週間後、友人がくれたお礼のお菓子と一緒にパソコンが返ってきた。友人にそれとなく、何かおかしなことは無かったか聞いてみたが、特に異変はなかったと言われた。ただ一言思い出したように

「そういえばスリープ画面の赤ちゃん、お前の弟?かわいいな。」

と言われた。

 この出来事以来、福田さんはパソコンを使うことができなくなったそうだ。