はやりの遊び

 去年小学校の教師になったばかりの竹本さんという女性から聞いた話だ。竹本 さんは初年から三年生の担任を任され、忙しい日々を送っていた。教師の中でも 一番若手の彼女は、下校後の見回りも自分から進んで行った。

 二学期が始まってしばらくたった十月のある日のことだった。部活動が終わっ た夕方六時ごろにいつものように校内の見回りを始めた。三年の廊下に差し掛 かったとき、ふいに子供の歌声が聞こえてきた。わらべ歌のような、独特の節が ある歌だった。教室を覗くと、担任しているクラスの児童一人が手で顔を覆って 立っている。歌はその子が歌っているようだ。竹本さんが早く帰るように声をか けると、その子は驚いて顔を上げた。それと同時に、教室の教卓の影からほかの 生徒たちが四人出てきて竹本さんに文句を言い始めた。どうやら彼らの遊びを邪 魔してしまったようだ。それでも下校時刻は過ぎているので、急いで帰り支度をさせた。生徒たちを校門まで送っていく最中、先ほどの遊びについて聞いてみた。 生徒たちの間ではやっている遊びで、鬼は顔を伏せて歌い、その間に他の子は隠 れる。隠れた生徒が声をかけると鬼は顔を伏せたまま探し始める。

 ようするに目隠し鬼だ。

 鬼は探す間中歌い、隠れた子供は必ず合いの手を入れなければならない。合い の手の声を便りに、鬼は他の子を探す。三回歌い終わるまでに一人も見つけられ なかったら鬼の負け、そういうルールなのだそう。はやっているような口ぶりだっ たが、竹本さんは初めて聞いた遊びだった。教室で目隠しは危ないので次は校庭 でやるように注意して、生徒たちを家に帰した。

 職員室に戻り、他学年の先生にこの遊びを知っているかと聞いてみた。その先 生も知らないようだったが、隣で聞いていた学年主任が驚いた顔をして竹本さん に聞き返してきた。生徒が話した内容をそのまま話すと、まわりに居た校長を含 むベテランの先生方も寄ってきて、遊びを禁止させるための小会議が始まった。 状況がわからない竹本さん達若手教師に、校長が説明した。
 生徒たちの間で、約十年に一度の間隔で同じ内容の遊びが流行するのだそうだ。
毎度、なぜか教師の耳に届くことなく、気が付くと流行している。そして、遊び の最中に毎回生徒がケガをしたり行方不明になったりする。だから気づき次第、 遊びを止めるようにしているのだと校長は言った。目隠し鬼だし、転んでけがす る子が多かったのかな、と竹本さんは思った。確かに危険を伴う遊びであるし、 禁止するのも不思議ではなかった。翌日、すぐに遊びを禁止するようにと全校生 徒にプリントが配られた。

 後日、休日に近所の公園を通りかかると、生徒たちが禁止された例の遊びをやっ ていた。学校外のことであったため、止めるべきかどうか迷っていると、鬼役の 生徒の後ろに髪の長い女が立っていることに気が付いた。女は鬼の子と同じよう に、手で顔を覆った状態だったのだが、その装いは異様だった。ぼろ布を上から 被ったような服で、腰のあたりを麻縄らしきもので結び留めていた。明らかに普 通ではない。急いで生徒の元に駆け寄ると、女は竹本さんが近づく直前に煙のよ うに掻き消えた。まだ昼間で日がまぶしいうちのことである。竹本さんが呆然と立ち尽くしていると、怒られると思ったのであろう生徒たちが気まずそうに謝っ てきた。気を取り直して、生徒たちに注意するとその日は帰った。    今では竹本さんは、生徒たちの怪我や行方不明の原因はあの奇妙な女なのだと 思っている。