証明写真

 美由紀さんという友人が、大学一年生のときに体験した話。

 その日美由紀さんは、大学の提出書類に添付する写真を撮るために、証明写真機 を置いている最寄りのコンビニへ向かっていた。時刻は午後八時を過ぎていた。自宅を出て三分ほどでコンビニに着いたが、不運なことに証明写真機には故障中の張り紙がしてあった。しかたなく、証明写真機を設置している少し離れたドラッグストアへと向かった。ドラッグストアはコンビニから自転車で十五分ほど行った場所にある。美由紀さんが着いた頃にはすでに閉店していて、暗い駐車場に証明写真機の明かりがポ ツンと浮かんでいた。周囲には数件の民家と道を照らす街頭しかない。少し不気味 さを覚えた美由紀さんは、早く写真を撮ってしまおうと、急いで自転車を証明写真 機の横に止め中へ入った。

 音声案内に従って操作をしていると、ふと、閉じたカーテンの外に誰かの足があるのに気が付いた。爪先は写真機側、つまり美由紀さんの方を向いて立っている。素足 に白いスニーカーの踵を潰して履いており、急いで家から出てきたような印象を受けたと言う。人気のない夜の駐車場である。美由紀さんは不審者や異常者が待ち構え ているのを想像して、声をかけることも外を確認することもできなくなってしまった。とりあえず気が付かないふりをして、居なくなるのを待とうと考え、写真機の中で息をひそめた。

 どのくらい経っただろうか、足はカーテンを開けたり覗き込んだりすることもなく、 十分ほど外に立っていたかと思うと、靴の踵を引きずりながら唐突に去って行った。 来るときには気が付かなかったその音が小さくなって聞こえなくなるまで、美由紀さ んは写真機の中で震えていた。やがて何の物音もしなくなったところで、カーテンの 下から外をそっと覗いて誰も居ないのを確認すると、慌てて写真機から飛び出して家 へと帰った。

 家に帰り自転車のかごからバッグを取り出すと、ポケットから一枚の写真がひらりと地面に落ちた。見たこともない、若い女性の写真だった。バッグは写真機の中に持 ち込んでいたので、そこで誤って入ったのかもしれない。けれど、気持ち悪さが拭え ない美由紀さんはその写真をアパートの前に捨てて家に入った。

 翌日女性の腐乱死体が見つかったという報道がテレビで流れた。美由紀さんが行っ た、あのドラッグストアのすぐそばで発見されたという。テレビには現場である駐車 場真横の用水路を映していた。その直後、被害女性の姿に切り替わった画面に、昨夜バッグから落ちた証明写真と、まったく同じ顔が写っていた。

 この話を聞いたしばらく後に美由紀さんとは連絡がとれなくなった。