不法投棄
今から十五年ほど前のことである。祐司さんの祖父が管理する山で、不法投棄が 相次いだことがあった。捨てられたものは人形や食器類、家具家電とさまざまであったが、内容を見るにどうも業者ではないようだった。警察に相談すると、山に至る 道を見回ってくれことになったのだが、山に捨てられるゴミが減ることはなかった。 祖父も山道に門を作りフェンスを建て、監視カメラを設置し対策したものの、一向に 収まる気配はない。しばらくして裕司さんたちは、犯人がカメラや警察の見回りを 避けるため、徒歩で山を登っていることに気が付いた。対策できず困り果てた祖父を 見かねた祐司さんと彼の父親は、しばらくの間二人で山を見張ることにした。
見回りを初めて一週間ほど経った日の夜、裕司さんは以前投棄されたまま放置して いた冷蔵庫の前に座り込む人影を見つけた。時間は二十三時を回ったころである。し ばらく隠れて様子を伺っていると、女はぶつぶつと何かをつぶやきながら、一心不乱に手を動かしている。よく見てみると、右手に大きな出刃包丁を持っていた。細い女に対してガタイの良い男二人ではあったが、さすがに凶器を手にした相手に向かっていくことはできない。
女に気づかれぬよう、そっとその場を離れて警察に連絡した。事件の可能性もあ るとすぐに警察がかけつけたが、女は既にいなくなっていた。警察と共に女がしゃが み込んでいた冷蔵庫を開けて見ると、子供の頭が出てきた。一瞬本物かと思い身を固 くしたが、その頭は人形のものであった。人形は当時販売されていたミルク飲み人形で、 かわいらしい金髪の巻き毛だったのだが、なぜか全て引き抜かれていた。その代わり、 黒く細い毛が空洞いっぱいに詰められ、穴から乱雑に引き出されている。頭以外のパー ツも関節部から切られて冷蔵庫に押し込められており、そのどれもに黒い髪の毛が目いっぱい詰められ、異様な状態だったという。
今後も女が山に来る可能性があるということもあり、祐司さん達は夜中の見回り をやめた。さらにこの出来事のすぐ後に警察が不法投棄をしていた犯人を捕まえた ことで、一連の騒動は収束した。犯人は近所に住む中年の男であった。結局、祐司さんと父が遭遇した女の正体は今でも分かっておらず、見回りを続けている警察も怪 しい人物は見かけないと言っている。ところが今でもたまに、山に物が捨てられてい ることがある。ゴミは決まってベビーベッドや哺乳瓶などの子供用品ばかりである。
祖父が他界し、現在は祐司さんが管理を続けているが、年に一度ほどのペースでゴミ を見つけるそうだ。

