髪の毛の幽霊

 美容師の佳奈子さんが勤めている美容室には、髪の毛の幽霊が出たと言う。髪の毛の幽霊は、お客さんの接客をしているときや、閉店後にウィッグと呼ばれるマネキンでカットの練習しているときによく出る。

 見た目は十〜二十センチくらいの黒いつやつやとした髪の毛で、いつのまにか同じような黒髪のお客さんの髪の毛に混じっている。美容師は毛量の不自然さから、髪の幽霊の存在に気が付く。髪の幽霊はしばらく櫛で梳いたり、ハサミを入れようとしたりすると、パッと消えてしまうそうだ。

 以前、佳奈子さんは一度だけ、その髪が黒髪以外に混じっているのを見かけたことがある。その時佳奈子さんは明るい茶髪のお客様を担当していた。お客さんをシャンプー台に寝かせ、軽くもみ洗いしていると、茶色い髪の毛の間から真っ黒い髪が見えていることに気がついた。黒髪以外で見たとこではじめて気が付いたのだが、よく手入れされた綺麗な黒髪だった。黒髪は結局ドライヤーで乾かしきるまでそこにいた。佳奈子さんには鏡にも黒髪が映って見えたのだが、お客さんがそれに気が付く様子はなかった。

 しかしある時、物置の奥に放置されていた一体のウィッグが見つかってからというもの、髪の幽霊はぱったりと現れなくなってしまった。ウィッグは物置の棚の陰に落ちており、店長が年末の大掃除で見つけてきた。ウィッグを見た瞬間に、佳奈子さん含む従業員全員が、あの髪の幽霊だ、と気が付いた。触り心地もあの髪の毛そのものだったという。また、何年も放置されていたとは思えないほど指通りの良い綺麗な髪の毛だった。

「あのウィッグも手入れしてほしかったんですね。」

 佳奈子さんは最後にそう語っていた。    今では他のウィッグと同じように練習に使用している。