赤い爪
現在社会人の江崎君が、中学生の時に体験した話。
江崎君の通学路の途中には、小さな神社とコンビニが並ぶ場所があった。江崎君はよく放課後そのコンビニでお菓 子を買い、隣にある神社でおしゃべりをしながら食べていたという。
ある時期から、そのコンビニ付近で、妙な女性を頻繁に見かけるようになった。その女性は、赤い半そでシャツに、赤のロングスカートを着ており、なぜか草履をはいていた。昼間はたまに帽子を、同じく赤色のものを、かぶっていることもあったらしい。 女はコンビニの前に立ってふらふら揺れていることもあれば、神社の石段に腰かけていることもあった。江崎君は下校中、ほぼ毎日その女を見かけたという。初めのうち 子供たちはその珍奇な様子に興味津々であったが、一カ月もたつと関心も薄れて、日常の一部に変わっていた。学校の先生や親たちもその女の存在には気づいていたが
「病気の人らしいけん、面白がったらいけんよ。」
と軽く注意をするだけだった。
女の存在に違和感を抱かなくなったころである。友達の一人が、女に話しかけてみようと提案してきた。今考えれば大変に不謹慎ではあるが、当時は肝試しのような感覚だったそう。江崎君も好奇心が抑えられず、参加することにした。その日の放 課後、女は神社の境内でふらふらと揺れていた。事前に行ったじゃんけんで、友達の C君が女に話しかけることになった。C君は友達の中でも一番の怖がりで、決まった後 も渋っていたが、女を見つけると、意を決したように向かっていった。江崎君たちはその様子を石段の下で隠れながら見守っていた。
C君が女に何かを話しかけた。女は揺れるのをやめ、数秒C君と見つめあっていた。かと思うと、何かを叫びながらC君の肩をつかみ猛然と揺さぶり始めた。なぜか女も一緒にがくがくと頭を振っている。女はC君を揺らしながら
「あんた、あんた知ってる!何やってる、こっち見てる、あんたがやったんでしょ!」
こんな、意味の分からない言葉を叫んでいた。聞き取れない部分も多かった。とても正気の人間には見えない。江崎君たちは驚いて動けなかったが、C君が女から逃げよともがくのを見て、あわてて女を止めに入った。C君と女を引き離すと、急いで石段を駆け下り、それぞれ逃げ帰った。親に言おうかとも思ったが、怒られるのが嫌で話すことはできなかった。
次の日、江崎君は初めて朝の登校中に女を見かけた。昨日のこともあり、女を見 ないように通り過ぎようとした。女の横を通るときに、女がぼそぼそと何かをつぶ やく声が聞こえた。
「見てたよ、見たから。知ってる、知ってる。」
と、女は歌うようにつぶやいていた。思わず女の方を向き目が合うと、女は手を振り、 にたあっと笑いかけてきた。いつもとは違い、赤い手袋をつけていたのが印象的だった という。恐ろしくなった江崎君は学校まで走った。学校に着くと、下駄箱に人だか りができていた。中心にはC君がいる。人をかき分けC君の元へ行くと、彼の下駄箱 には数枚の赤い紙切れのようなものが入っていた。
それは生爪だった。ペンチなんかで 無理やり引き抜かれたように、根本が白っぽく、皮膚のようなものがこびりついてい たように思う。真っ赤なマニキュアが塗られていて、すぐにあの女の爪だ、とわかった。その後は誰かが先生を呼んできて、騒ぎは収まり、事情を話した江崎君たちはこっぴどく叱られた。学校から警察にも連絡をしたようで、女のことを詳しく聞かれた。江崎君たちはしばらく親の送迎で学校に来るようになったが、その日以来女は一度も 見かけなかった。
江崎君が赤い服を見ると今でも思い出す話である。

