ついてくるもの
和美さんは高校生のころから現在まで、ずっと同じバンドにハマっている。学生のころからちょくちょく遠出し頻繁にライブに行っていた。しかしライブに参加するにはチケット代はもちろん、グッズや宿泊費もかかるため、食事を抜いたり交通費を抑えたりして節制していたそうだ。
そんな和美さんが交通費を抑えるためによく利用していたのが夜行バスだ。博多から東京まで、安い時なら二万少しで往復できる。学割なんかも使うともっと安くできるため重宝していた。和美さんが大学二年生の十一月のこと、その日は夜九時に博 多駅発のバスに乗る予定だった。
平日だったこともあり、そのバス停に居たのは大学生風の女性と、薄い紺色のスー ツを着た中年男性、そして和美さんの三人だけだった。間もなくバスが来て、添乗員 がリストと照らし合わせながら客を乗車させていった。和美さんの前に並ぶ男性の番になり添乗員が声をかけた。が、男は一向に返事をしない。顔は相手の方を向いているので、認知はしているのだろうが一切の反応を示さない。添乗員も戸惑っていたが、 時間もなかったためいったん男を飛ばして和美さんに声をかけた。バスに乗車した後 もしばらく添乗員は男に話しかけていたが、結局男を乗せること無く、バスは出発してしまった。
バスは二時間ほど走った後に、とあるパーキングエリアに止まった。そこで十五分 ほどの小休憩をはさむのだ。和美さんは外で軽くストレッチをした後に、併設しているコンビニで軽食を買ってバスへと戻った。コンビニからバスまで戻る途中、本線に合 流する道路の端に人が立っているのが見えた。
(あんな所に立って…危ないなあ)
横目で人影を確認しつつ、バスに乗り込んだ。やがて走り出したバスの窓から人影を その人影をはっきり確認した和美さんは、はっとした。初めのバス停で彼女の前に並んでいた、あのスーツの男にそっくりだったからだ。乗り遅れたこのバスを追ってきたのかとも思ったが、それならあんな場所に突っ立っていることもないだろう。いろいろ考えを巡らせ釈然としない気持ちのまま、眠りについた。
次に和美さんが目覚めたのは、広島県に入ってからだった。停車した揺れで目を覚 ました。うつらうつらしながら、出発するのを待っていると、ふとカーテンの隙間からちらちらと光が漏れているのに気が付いた。何の気なしにカーテンを開けて見ると、 誰かがバスと休憩所の間を遮っているようだった。ゆーらゆーらと左右に小さく揺れる、変な動きをしていた。不思議に思って目を凝らすと、それはあのスーツを着た男であった。驚いた和美さんは反射的にカーテンを閉め、座席に縮こまった。
次の休憩所で窓から確認したが、やはりスーツ姿の男が立っている。そこから先のバス停やパーキングエリア、全てにスーツの男は居た。バス停で降りた人がその男を避けて通行していたことから、他の人にも見えているようだった。幽霊ではないことに 胸をなでおろしたが、生きている人だったとしても目的がわからず恐ろしかった。
和美さんの降りたバス停にも当然のように男は居た。男は和美さんに反応するで もなく、ゆらゆらと小刻みに揺れていたという。小走りで家まで急いだが、男が追って来ることはなった。
これ以来、和美さんに不思議な体験は起こっていない。

